生成AIを使い始めた経営者の方から、少し先の悩みを聞くことが増えてきました。作業は確かに速くなった、では空いた時間で何をするのか、というものです。作業によっては、これまで1時間かけていた下書きが数分で出てくるようになります。そうなると次に来るのは、決める場面が一気に増えるという変化です。ここで効いてくるのが、理念やビジョンだと考えています。
作業が減った分だけ判断が増えます
生成AIが肩代わりしてくれるのは、書く、まとめる、整理するといった手を動かす部分です。何を書くか、どれを選ぶか、やるかやらないかは、人が決めることとして残ります。
つまり、仕事の中身が「作業する」から「決める」に寄っていきます。これは経営者ほど強く出ます。もともと判断が仕事の大半を占めているところに、これまで手が回らなかった案件まで検討できるようになるからです。
企画書が半日で3案出せるようになったとして、良くなったのは作る速さだけです。どれを採るかは、速くなりません。
もうひとつ理由があります。これまでは決めずに済んでいたからです。新しい事業を考えたい、値上げを検討したい。そう思っても、資料をつくる時間がないので先に進みませんでした。「今は無理だ」で止まっていたわけです。判断したように見えて、実際には時間が足りなかっただけです。
生成AIでその時間が減ると、この「今は無理だ」が使えなくなります。やろうと思えば手が届いてしまいます。やらない理由を、自分で説明しなければならなくなります。
後回しにしてきた仕事に手が届きます
仕事を緊急度と重要度で4つに分ける、よく知られた整理があります。そのうち重要だが緊急ではないものが、いちばん後回しにされます。

中小企業の経営者ほど、目の前の納期やトラブルに時間を取られます。そして後回しになるのは、たいてい次のようなものです。
- 理念や方向性を言葉にすること
- 人を育てること、任せられる状態をつくること
- 業務の型をつくり、属人化を減らすこと
- 新しい柱になる事業を考えること
どれも、やらなくても今日は困りません。困らないから、何年も手つかずのまま残ります。
生成AIで作業の時間が減ると、ここに手が届くようになります。ただし、放っておいても届きません。空いた時間は、緊急な仕事か、緊急に見えるだけの雑務に吸い込まれます。実際、効率化のあとで「何が変わったか分からない」となる会社は、たいていここで吸われています。
空いた時間を何に使うかを、空く前に決めておくのが現実的です。そしてその「何に使うか」を決めるのが、次に書く基準の話になります。
基準がないと速さが迷いに変わります
ここで基準を持っていないと、速さはそのまま迷いになります。
生成AIに聞けば、案は3つでも10でも出てきます。どれももっともらしく書かれています。選ぶ物差しがないまま案だけ増えると、決められないか、全部やろうとして手が回らなくなるかのどちらかです。
実際、ご相談でも「生成AIで色々できるようになったが、あれもこれもとなって、かえって進んでいない」という話を聞きます。道具のせいではなく、選ぶ基準が用意されていないだけです。
生成AI活用生成AIを導入したのに社内で使われないとき
理念は精神論ではなく判断の道具です
理念やビジョンというと、額に入れて掲げるものという印象があるかもしれません。ただ、実務で効くのはそこではありません。選択肢を捨てるための基準として効きます。
「うちはこういう会社だ」がはっきりしていれば、目の前の案が自社のやることかどうかを、その場で判断できます。逆に決まっていなければ、案ごとにゼロから考えることになります。判断の回数が増えたときに差が出るのは、この部分です。
理念は、迷わないためではなく、速く捨てるためにあります。捨てられないと、増えた選択肢がそのまま負担になります。
大がかりな策定は要りません。次の3つが自分の言葉で言えれば、当面は足ります。
- どんなお客さまのために仕事をするのか(裏返すと、誰を客としないのか)
- 何で選ばれたいのか(安さなのか、速さなのか、任せられることなのか)
- 何を大事にする会社なのか(社員に何を求め、何は求めないのか)
意外と効くのはやらないことを決めておくほうです。できることが増えた状況では、できるかどうかでは判断できません。
社員が自分で決められる状態をつくります
ここまで社長の話をしてきましたが、実際に効いてくるのは社員の側かもしれません。
生成AIが現場に入ると、社員の方も決める場面が増えます。この資料はこの内容で出してよいか、この回答をお客さまに送ってよいか、この案とこの案のどちらを持っていくか。これまでは作るだけで精一杯だったところに、選ぶ仕事が乗ってきます。
判断の基準が共有されていないと、これが全部社長のところへ上がってきます。速くなったはずなのに、決裁待ちの列ができる。ここでつまずいている会社は少なくありません。
目指すのは、細かい判断基準を配ることではなく、社員の方が「社長ならこう言うだろうな」と想像できる状態です。そこまで来ると、迷ったときに自分で決められますし、判断が合っていたかもあとで確かめられます。逆にここが無いと、いくら権限を渡しても誰も決めません。間違ったときに何を言われるか分からないからです。
理念やビジョンは、そのためにあります。額に入れて掲げるためではなく、社員が社長の思考を借りるための言葉です。浸透とは、暗唱できることではなく、判断のときに思い出せることだと考えています。朝礼で唱えるより、実際の判断の場で「うちはこう考えるからこうする」と理由ごと言葉にするほうが早く伝わります。
理念を生成AIと壁打ちすると言葉は整います
では理念を生成AIと一緒に考えよう、と思われるかもしれません。実際、よい使い方だと思います。頭の中にあるものを言葉にする作業は、生成AIが得意なところです。
ただ、出てくるのはきれいな言葉です。整っていて、破綻がなくて、どこかで見たような文章。読んで嫌な気持ちにはならないけれど、心も動かない。理念づくりで生成AIを使うと、かなりの確率でここに着きます。
問われるのは、その言葉に血が通っているか、熱量があるかです。社員の方は、社長がその言葉を本気で言っているかどうかを、驚くほど正確に見抜きます。整っているだけの言葉は、掲げた時点で見抜かれて、誰も判断の拠り所にしません。
だから、生成AIとの壁打ちのあとに、人との壁打ちが要ると考えています。なぜその言葉を選んだのか、本当にそう思っているのか、都合の悪い場面でもそう言えるのか。こうしたことは、聞かれないと出てきません。ひとりで考えていると、整った言葉のほうに流されます。
生成AIで下書きをつくり、人と話して自分の言葉に戻す。この順番が、いまはいちばん早いと思います。
とはいえ、道具を入れる前に理念を固めなければならない、という話ではありません。まず小さく使ってみて、判断が増える感覚を持ってからで構いません。
生成AI活用中小企業が生成AIを使い始めるとき、最初に決めるとよい3つのこと
グレジャーでは岡山を中心に、生成AIの活用支援と、経営計画や理念の整理の両方をお手伝いしています。中小企業診断士として経営の側から入れるので、道具の話と会社の方向の話を切り離さずに進められます。理念やビジョンを言葉にするときの、壁打ちの相手も務めます。作業は速くなったが次に何をするか迷っている、という段階で構いませんので、まずは現状をお聞かせください。

